3月2~3日に星なかまの集いに参加し、金環日食限界線研究会の取り組みに
ついて発表しました。
サマリーに掲載した文章を転載します。
金環日食を日食メガネで観測した場合、 金環日食限界線がどこになるのか。
2012 年5月21日以前にはわかっていなかった。 この着眼点が出発点となり
金環日食限界線研究会が発足し、全国で共同観測が行われた。
研究会はチームR(日食めがねによる限界線),
チームB(ベイリービーズ観測により太陽半径測定),
チームM(教育動画を制作)、
各地域グループ(共同観測キャンペーン:L計画) という構成であった。
■チームB
全国の15 班20 地点でベイリービーズ観測に成功した。観測結果は早水に
よって解析し、その結果をもとに相馬が暫定値として
太陽半径696019km±10kmと求めた。
太陽半径について過去最高の精度である。
■チームM
動画像も完成し、 貴重な映像記録となった。
■チームR
本プロジェクトではweb サイトを通じて一般市民から報告を受け付ける体制を作った。
メディアの報道もあり、多くの市民が計画に賛同し、大きな盛り上がりになった。
当日の7時からweb を通じてリングになったかどうかの報告を受け付け、
14,844 人からの報告を得た。全国23 の各地域グループは、独自に観測を行い、
各々で限界線を決定した。
これらの地域グループの結果からは合計約30000 人の観測をまとめることができた。
観測結果をまとめることができた各地域グループの結論は以下のとおりである。
( )は主担当者及び天候である。
またNASA ライン、国立天文台ライン、相馬早水ラインの名称は
それぞれが予報した限界線をあらわす。
*兵庫県立須磨東高等学校(岸本浩)NASA ライン上(一部曇天)
*兵庫県立北須磨高等学校(壷井宏泰)
相馬早水ラインから北に約500m (最小二乗法による解析)
あるいは北に約1400m(全
データに加重を付け累積分布関数フィッティングした結果)(晴天)
*大阪北地域グループ(井上和俊)相馬早水ラインから北300m(晴天)
*金環日食2012 京都学校連携連絡会(有本淳一)相馬早水ライン上(晴天)
*滋賀県金環日食共同観測プロジェクト(高橋進)相馬早水ライン上(晴天)
*岐阜県立大垣東高等学校(ハートピア安八天文台船越浩海)相馬早水ラインの北156m
(予報ラインを高度補正した後のライン。標高0mでは北に125m) (晴天)
*長野県塩尻市立丘中学校(宮下和久)相馬早水ラインから南250m(晴天)
*長野県上田・小県地区(渡辺文雄)相馬早水ラインから北300m(晴天)
*福島県日食観測隊(近藤正宏)相馬早水ラインを含み、国立天文台ラインから
南へ7km 程度までのエリア(一部曇天)
*明石金環日食観測隊(鈴木康史)明石市内を通った。雲越しに観測した場合
限界線が広がりNASA ライン付近(一部曇天)
*全国のデータ解析(石坂千春) 相馬早水ライン±500m
結果まとめ
晴天だった地域では日食メガネによる金環日食北限界線は±500m の範囲で
相馬早水ラインに一致した。
これを今回の研究会の結論としたい。
考察
3 つのラインのうち、相馬早水ラインは月縁地形の凹凸を考慮して計算された
金環日食の限界線である。 日食メガネによる金環日食北限界線が±500m の
範囲で相馬早水ラインに一致したことから、 人間の視力 (分解能) でも
月縁地形の凹凸による見え方の違いが認識できたといえる。
月の地形については月探査機KAGUYA により精密に求められているため、
限界線を±500m の精度で決定することは、 太陽半径を±200km の精度で
求めることに相当する。
これはチームB の観測精度には及ばないものの、 近年の高精度な太陽半径の
測定に匹敵する精度である。
また、 雲越しの観測がおこなわれた場合、 ビーズ状態もリングと認識する傾向が
あることがわかった。 NASAライン付近に限界線があると判断したケースは雲効果によるもの
だと思われる。 雲効果はこれまで知られておらず新知見である。
報告のばらつき要因としては日食メガネの種類、 天候、 心理的要因が考えられる。
条件を整え、訓練した集団であれば、より正確な観測が可能であると思われる。
今回の取り組みにより多くの児童・生徒、 一般市民の観測からも十分科学的価値あるデータ
を得ることが可能であることが明らかになった。 参加者にとっては、 自分たちの観測が天文
学の発展に寄与できるという経験をしたことになり、 理科教育的にも大きな意義があった。
本プロジェクトは金環日食の観測に新しい視点を与えることになったと考える。
日本では2030年、 2041 年に金環日食が観測できる。 そのときにもぜひ限界線観測を行ってほしい。
■追記
以上は2012 年9月に大分大学で開催された日本天文学会年会で報告した内容に追加修正し
たものである。
金環日食はほぼ毎年世界のどこかで見ることができる。 研究会の有志メンバーは今回の経
験を元に2013 年5 月10 日にオーストラリアで金環日食の観測を行うことを計画している。
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